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仙台高等裁判所 昭和36年(ラ)38号 決定

抗告人 坂野二三郎

相手方 山下長七 外二名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

よつて考えるに、抵当権の目的たる数個の不動産につき競売の申立があつた場合、これを個別に競売に付するか、はたまた一括して競売に付するかは、一般的には競売裁判所の自由裁量に属することは所論のとおりである。

しかし、競売裁判所は利害関係人の利益を考慮しないで競売の方法を任意に定めることができるものと解することができない。けだし抵当権の実行を競売の方法によらしめたのは、できるだけ目的物件を高価に売却して、債権者に満足を与えるとともに、債務者・物件所有者等の利益を保護するのが法の精神であるからである。

本件記録を調査すると、山形地方裁判所は、相手方(債権者)山形庶民信用組合の申立にもとづき、本件抵当権の共同担保である別紙目録記載の宅地建物につき競売手続を開始し、右相手方の申出により、昭和三五年五月三〇日の第一回競売期日において、同目録(三)の建物を除き一括競売に付したところ、競買申出人山下恵三が右(三)の建物を最高価四〇一、二〇〇円で競落したのみでその余の宅地建物については競買申出がなかつた。次で右相手方は賃借地上にある別紙目録(四)の建物は一括競売から除外されたい旨申出たので、同裁判所は同年八月三日の第二回競売期日において右(四)の建物を除き同目録(一)・(二)宅地建物を一括競売に付したところ、競買申出人山下恵三が右(四)の建物を最高価五〇万円で競落したので、同目録(一)の宅地と該宅地上の建物である同目録(二)の建物が残つた。同裁判所はさらに同年一一月二五日第三回競売期日を開き、右残つた宅地建物を一括競売に付したが競買申出人がなく、次で昭和三六年一月二六日第四回競売期日において、一括競売を廃し、個別に競売に付したが競買申出人がなく各期日を終了し、同年二月二三日第五回競売期日において、個別に競売に付したところ、抗告人は同目録(二)の建物のみを一、〇六〇、一〇〇円の最高価で競買申出をしたこと及び同年三月二日の競落期日において、相手方らは各利害関係人として、右建物についてのみ競落を許すと、法定地上権が生じ同目録(一)の宅地が値下りして、相手方らが莫大な損害を被る旨異議を申立てたところ、同裁判所は抗告人に競落を許可しないで期日を終了し、同年四月一〇日相手方らの右異議申立を理由があると認め、民事訴訟法第六七六条にしたがい新競売期日及び競落期日を指定する決定をなしたことが明らかである。

ところで、本件におけるがごとく、一個の抵当権の目的たる宅地とその地上建物の一括競売を廃して個別に競売に付し、建物のみを競落すると、法定地上権が生ずるために宅地の価値は著しく減損し、債権者・債務者・所有者等に重大な損害を及ぼすことが許されるから、みだりに一括競売を廃し個別競売に付すべきではない。もし競売裁判所が利害関係人に及ぼす影響を考慮せず、特段の事由がないのに一括競売を廃し個別競売に付した結果、利害関係人において著しき損害を被ることが明らかである場合には、右個別競売は競売法の前示精神に背反する違法なものとなり、じ後そのままでは執行を続行すべからざるものというべく、利害関係人は競売法第三二条により準用される民事訴訟法第六七二条第一号により異議の申立ができると解すべきである。

本件につきこれをみるに、山形地方裁判所が前記のごとく一括競売を廃止し個別競売に付するについて、利害関係人に及ぼす影響を考慮した形跡は全然ないし、また一括競売を廃して個別競売に付することを是認すべき特段の事由は見当らない。そして別紙目録(一)の宅地の評価額は一、六六五、〇〇〇円、同(二)の建物のそれは九九四、〇〇〇円(第五回競売期日における最低競売価額は低減した結果、宅地は、一、〇九四、〇〇〇円、建物は七二九、〇〇〇円)であるところ、相手方株式会社殖産相互銀行提出の財団法人日本不動産研究所仙台支所作成にかかる鑑定評価書によると、右宅地の価額は一、八三一、五〇〇円、建物のそれは一、一三二、〇〇〇円であつて、これらを一括して処分する場合の宅地の価額に対比し、建物所有のための貸地としてのその価額は二分の一であることが認められ、抗告人の前記競落を許すと相手方らは著しき損害を被ることが明らかであるから、相手方らは本件競落の許可につき異議申立ができるものといわなければならない。この点につき抗告人は、宅地につき法定地上権が生ずればこそ建物の競売価額が増大し、宅地の競売価額が値下りしても、その結果は同じことであるというのである。なるほど抗告人が最低競売価額七二九、〇〇〇円をこえる一、〇六〇、一〇〇円で建物の競買申出をしたことはさきに認定したとおりであるが前示のごとく宅地の価額が二分の一に減ずると、結局宅地建物の合計価額はこれらを一括して競売に付した場合に到底及ばないことが明らかであつて、右抗告人の主張は是認し難い。

また抗告人は、相手方株式会社殖産相互銀行は抵当権の順位並びに被担保債権額からみて、異議申立をする理由がないというのであるけれども、本件記録及び同銀行提出の「疎明提出書」と題する書面によると、同銀行は相手方山下長七から別紙目録(一)・(二)の宅地建物を共同担保として債権極度額元本二〇〇万円の根抵当権の設定を受け、現に、一、六九三、九六五円の債権を有し、右の物件を個別競売に付すると十分な弁済を受けることができないおそれがあることがうかがわれるから、同銀行は本件競落許可につき異議申立ができるものといわなければならない。

してみると、山形地方裁判所が相手方らの異議申立を理由があると認め、前記のごとく新競売期日及び競落期日を指定する決定をなしたことは相当であつて、本件抗告は理由がない。

よつて、民事訴訟法第四一四条・第三八四条・第九五条・第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 鳥羽久五郎 羽染徳次 桑原宗朝)

目録

(一) 山形市材木町四五一番 宅地一一一坪

(二) 山形市材木町四五一番の二、家屋番号三四区一七二号

木造瓦葺二階建居宅、建坪三〇坪七合五勺外二階一一坪二合五勺

付属

木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建物置、建坪八坪外二階八坪

(三) 山形市材木町三七五番の三、家屋番号三四区五二〇号

木造亜鉛メツキ鋼板葺平屋建居宅、建坪一五坪五合

(四) 山形市材木町字東前四五一番、家屋番号三四区五一八番の五

木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建事務所、建坪九坪外二階九坪

抗告の趣旨

原決定を取消し、本件競落を許可する旨の裁判を求める。

抗告の理由

(一) 相手方山形庶民信用組合(競売申立人)・山下長七(債務者)・株式会社殖産相互銀行(債権者)らは、民事訴訟法第六七二条第三号所定の事由があるものとして、本件競落の許可につき異議の申立をしたが、本来競売物件を一括して競売に付するか、または個別に競売に付するかは執行裁判所の自由裁量に属し、右条項の法律上の売却条件にあたらない。しかも競売は各物件を別個に競売に付することが原則であつて、一括して競売に付することは例外である。したがつて、本件競売において山形地方裁判所が一括競売をしないで、競売物件を個別に競売に付したことは法定の売却条件を変更したことにはならない。

(二) 相手方らは、個別に競売に付すると宅地の値下りにより債権者・債務者双方の利益を侵害するおそれがあるというのであるが、このような心配はない。すなわち、宅地につき法定地上権が生ずればこそ建物の競売につき競買人間の競争となり、本件においても抗告人は競買申立人である山形庶民信用組合代表者佐久間丈助とはげしい競争の末、最低競売価額七二九、〇〇〇円をはるかに上まわる一、〇六〇、一〇〇円で本件建物を競落したのであつて、山形地方裁判所が宅地と地上建物とを個別に競売に付したために、宅地の値下りを来したとしても、建物の競売価額が以上のごとく増大したのであるから結果は同じことである。

(三) 本件競売においては、個別に競売に付することとしてから二回目にようやく競買人が出たのであり、この競売には右山形庶民信用組合が右のごとく競買に参加し、抗告人と競争したのであり、抗告人の競落に対し異議を申立てる筋合はない。そして、右の競売期日には、相手方株式会社殖産相互銀行も出頭したのであるが、同銀行は競買に参加する意思がなく、また同銀行は抵当権の順位並びに被担保債権額からみて異議申立をする理由は少しもない。相手方山下長七の異議申立はなんらの根拠もないものである。

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